投稿

ラベル(現状認識)が付いた投稿を表示しています

空き家のお話 その1 空き家の議論をする前にすべきこと

イメージ
 前職の終盤では、空き家政策に関わる機会がとても多くありました。 思い起こせば、もっぱら不動産信託やら金融やらを研究していた時代から、ファイナンスの帰着先として不動産の価値にテーマがシフトし、その流れから既存住宅流通市場の活性化に取り組み、さらにその流れから空き家問題にたどり着いた、ということかと思います。 全国各地で、空き家問題に取り組む自治体があらわれ、様々な場面で関わらせていただきました。 多くの場合、地元の有識者や事業者の方々などからなる検討組織を組成し、行政としての空き家対策を議論していきます。 しかし、私がお受けする相談のほとんどが 「何から手をつけてよいのかわからない」 でした。 次に多いのが 「事例を教えてください」 でした。 せっかくの検討組織を組成して、どうしてそのような事態になるのでしょうか? それには幾つかの理由があります。 ここでは、その1つをご紹介します。 それは、 「空き家と一言でいってもいろいろある」 ということです。 当たり前じゃないか、という話になりますが、空き家の議論を行う際、議論を行う者すべてが、このいろいろある空き家のどれかを想定して話をしてしまうのです。 例えば、人の居住や使用の実態と管理の実態により、下図のように大きく三段階にわけてみます。 行政またはそれに近い立場の方は、比較的に第三段階をイメージすることが多く、民間事業者の方は第一段階をイメージすることが多くあります。 当然ながら、 各段階において、空き家の物理的コンディションにも違いがあり、課題や打つべき手も異なってくる ので、ある人は第一段階の話をし、ある人は第三段階の話をしてしまうと、いつまで経っても議論が収束していきません。 そうなると、「何かわかりやすい事例はないか」となるのもよく理解できます。 空き家の問題とは、直面している課題は目に見えてわかりやすいのですが、それを一つ一つつぶしていく対処療法では、いつまで経っても終わりが見えません。 空き家問題が顕在化する一連の流れを理解し、今直面している課題はどのフェーズなのか、それを食い止めるには、一連の流れのどの段階で食い止めなければならないのか、このまま放置してしまうと何が起こるのか、そして、誰がそれをやるべきか、を俯瞰して全体をとらえたうえで、詰めていく必要があるのです。 このお話は、次回以降に詳しく...

リサーチの技術 その4 現状認識と価値判断

イメージ
現状認識と価値判断 この言葉に触れたのは、大学4年生の時でした。 私は、家庭の事情など、いろいろな事情が重なり、授業に出れない日も多くあったのですが、 当時、都市計画の講義をされていた日本の都市計画学者、高見澤邦郎先生に憧れ、 出来が悪い生徒であったのは重々承知のうえ、研究室の門をたたいたのです。 私のすべてはそこから始まったと言っても過言ではありません。 研究室では、当時、早稲田大学からお越しになっていた早田宰先生にもご指導いただきました。 そこで学んだ言葉が「現状認識と価値判断」です。 もう30年も前の話ではありますが、今でもその言葉を大切にし、後輩にもその言葉の意味を伝え、リサーチ&コンサルティングの現場で用いています。 現状認識と価値判断とは 例えば、地域のまちづくりワークショップなどで、そのまちの将来の姿、イメージする将来の目標像を議論していたとします。 もちろん参加者には、駅近のマンションに住んでいる方、低層戸建住宅地に住んでいる方、地域の商店街の方、商工会の方、行政の方、などなど様々な属性を持った方々が参加しています。 将来の目標像を描き、プランとしてカタチにするということは、そのような様々な属性の方達が共通の「価値判断」を行うことを意味します。 政策判断を行う、民間企業が経営計画を作成する、これらの行為はなんらかの価値判断を行っているのです。 では、価値判断は何に基づいて行われるのでしょうか? それが「現状認識」です。 これは、比較的イメージしやすい話で、 現状がこうだから、将来はこうしよう。と判断するわけです。 つまり、現状認識が異なれば、異なる価値判断に至りやすい、ということになります。 異なる属性の方々が同じ現状認識を持っていることは奇跡に近いことです。 異なる現状認識を持っていれば、異なる価値判断が行われやすくなり、いつまで経っても共通の目標像を描くことはできなくなります。 例えば、行政マンであったとしても、自分のまちを詳細かつ客観的に現状を認識し続けていることは難しいことです。担当者によっても認識が異なり、総合計画のような複数部局を横断する計画づくりの場合では尚更です。 そんな時には、様々なデータを駆使して、可能な限り客観的にそのまちの現状を示してあげる必要があります。それをもとに現状認識のすり合わせを行った上で、価値判断のステップに進むこ...