リサーチの技術 その4 現状認識と価値判断

現状認識と価値判断


この言葉に触れたのは、大学4年生の時でした。

私は、家庭の事情など、いろいろな事情が重なり、授業に出れない日も多くあったのですが、

当時、都市計画の講義をされていた日本の都市計画学者、高見澤邦郎先生に憧れ、

出来が悪い生徒であったのは重々承知のうえ、研究室の門をたたいたのです。

私のすべてはそこから始まったと言っても過言ではありません。


研究室では、当時、早稲田大学からお越しになっていた早田宰先生にもご指導いただきました。

そこで学んだ言葉が「現状認識と価値判断」です。

もう30年も前の話ではありますが、今でもその言葉を大切にし、後輩にもその言葉の意味を伝え、リサーチ&コンサルティングの現場で用いています。


現状認識と価値判断とは

例えば、地域のまちづくりワークショップなどで、そのまちの将来の姿、イメージする将来の目標像を議論していたとします。

もちろん参加者には、駅近のマンションに住んでいる方、低層戸建住宅地に住んでいる方、地域の商店街の方、商工会の方、行政の方、などなど様々な属性を持った方々が参加しています。

将来の目標像を描き、プランとしてカタチにするということは、そのような様々な属性の方達が共通の「価値判断」を行うことを意味します。

政策判断を行う、民間企業が経営計画を作成する、これらの行為はなんらかの価値判断を行っているのです。


では、価値判断は何に基づいて行われるのでしょうか?

それが「現状認識」です。

これは、比較的イメージしやすい話で、

現状がこうだから、将来はこうしよう。と判断するわけです。

つまり、現状認識が異なれば、異なる価値判断に至りやすい、ということになります。

異なる属性の方々が同じ現状認識を持っていることは奇跡に近いことです。

異なる現状認識を持っていれば、異なる価値判断が行われやすくなり、いつまで経っても共通の目標像を描くことはできなくなります。


例えば、行政マンであったとしても、自分のまちを詳細かつ客観的に現状を認識し続けていることは難しいことです。担当者によっても認識が異なり、総合計画のような複数部局を横断する計画づくりの場合では尚更です。

そんな時には、様々なデータを駆使して、可能な限り客観的にそのまちの現状を示してあげる必要があります。それをもとに現状認識のすり合わせを行った上で、価値判断のステップに進むことになります。


現状把握が大切なのはあたりまえじゃん。という方も多いと思います。

これまで莫大な量の報告書などを見てきましたが、価値判断を行うための十分な現状分析を行っている報告書はわずか一握りです。

また、「現状を把握する」のではなく、「現状を把握してその認識を共有する」ことが大切なのです。


現状認識と価値判断の混在 陥りやすいミス

アンケート調査を行う際、リサーチャーが陥りやすいこととしては「現状認識と価値判断の混在」があげられます。

例えば、居住者の方々に住環境を問うアンケート調査をするとします。

その際、わかりやすい例で言うと「道路が狭くて危ないまち」のような選択肢を設けたとします。

これが現状認識と価値判断の混在です。

これはリサーチャーが「道路が狭いと危ないよね」という先入観があると陥りやすくなります。

道路が狭い=現状認識

危ない=価値判断

ですので、道路が狭いからと言って、必ずしも「危ない」と価値判断するとは限りません。

自動車がスピードを出さないので、このくらいの幅員がいいよね、と考える方もいらっしゃるかもしれないのです。

ここでは、「道路が狭い」という現状認識をする方が居住者の何割

そのうち、「危ない」と判断する方が何割

と分けて分析すべきなのです。


何らかの価値判断を行う際、現状認識と価値判断が混在した先入観を持っていると、間違った方向に議論を誘導してしまう可能性があるので、十分に気をつけなければなりません。


価値判断を行う発射台となる「現状認識」を正しく持ち、それを共有する。

これが政策判断や経営判断を行う上で、極めて重要なことなのです。



kuwalab小沢

www.kuwalab.com




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