社会的インパクト不動産について考えてみる その1
社会的インパクト不動産とは
最近、この言葉について良く質問を受けます。
徐々に世の中に広まってきましたね。
ついつい、この分野については専門家っぽく書いてしまいがちで、、
せっかくフリーの立場になったこともあり、このブログでは自由な考えを書いてみようと思います。
まずは、社会的インパクト不動産の解説です。
こちらは、令和5年3月に国土交通省より「社会的インパクト不動産」の実践ガイダンスが公表されましたので、そちらをもとにご説明します。
そのガイダンスでは、
””社会とともにある「不動産」には、企業等が中長期にわたる適切なマネジメントを通じて、ヒト、地域、地球の課題解決に取り組むことで、「社会的インパクト」を創出し、地球環境保全も含めた社会の価値創造に貢献するとともに、不動産の価値向上と企業の持続的成長を図ることが期待されている。(このような不動産を「社会的インパクト不動産」と定義する。)””
””しかしながら、不動産が社会的価値向上に資するとの認識はまだまだ一般的とはいえず、企業等と投資家・金融機関との対話(資金対話)と、企業等と利活用者・地域社会等との対話(事業対話)の2つの対話が不可欠。””
と説明しています。
この定義が公表されるに至った背景としては、有識者や実務家による「不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会」により検討が積み重ねられたきたのです。
その検討会の目的としては以下のように説明がされています。
””少子高齢化の進展や自然災害の脅威への対応等の従来からの社会課題に加え、テレワークの進展等による多様な働き方・暮らし方等の新たな課題(展望)への対応が求められている中、投資家や金融機関においては、投資先や融資先に対してESGへの配慮を求める動きが拡大しています。これらの資金を活用して、事業者等による社会課題に対応する良質な不動産ストックの形成とそれに関わる多様な関係者の取組を促進するためには、ESG投資を不動産分野に呼び込むための環境整備を進めることが必要です。””
ここでESGという言葉が出てきています。この分野に近い方々にはおなじみの言葉ですが、聞いたことはあるがよくわからない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか?
似たような言葉でSDGsというものもあります。一体なにが違うのでしょうか?
まずはそこからご説明しましょう。
ESG、ESG投資とは
ESG、これは何かの頭文字だな、とお感じになるでしょう。その通りです。
E:Environment 環境
S:Social 社会
G:Governance 企業統治
の頭文字をとった言葉です。
これからの世の中、持続的な発展のためには、この3つの視点がとても大切です。
というものです。
ESG投資とは、簡単に言ってしまえば、この3つに価値を見出して投資を行うことです。
投資とは、経済的価値が認められたものに対してリターンを求めた行動と通常は理解されますが、環境や社会、企業統治というものに価値を見出していこうとするものです。
では、SDGs(Sustainable Development Goal:持続可能な開発目標)と何か違うの?ということになりますが、これは国連サミットで採択された開発目標で、ESGと同様に理念を持っています。SDGsは国際的な目標であり、ESGはそれを達成するための行動指針という関係として整理されるかと思います。
経済的価値を測る物差しと測れないもの
このあたりまでは、ネット検索をさっとすれば、いくらでも出てくる情報です。
わかりづらいのは、環境とか社会、企業統治に価値を見出す、そこにお金を投じるってどういうこと?という話です。
ここではわかりやすく
S:Social 社会
について考えてみましょう。
上でも触れましたが、お金を投資するということは、何らかの見返りを期待してのものです。不動産投資を考えればわかりやすいですが、賃貸運用が行われている不動産に投資して、リターンをもらうわけです。その際、この不動産は利回りがいくらいくらで、という経済的価値の裏付けがあるのです。
経済的価値とは、ある物差し(プライシング技術)があり、その物差しで経済的価値の大きさが測られ、ファイナンスという仕組みが紐づいて一つのシステムとして成立します。
この物差しで、「S:社会」というものを測ることができるのでしょうか?
普通に考えて無理なわけです。
しかし、これを何とかして測ろうという研究も進められてきました。
例えば、ビルを建てる時に、とても景観や環境、暮らしやすさに配慮したし、緑化も行った
というアクションが社会や地域に対して、どれだけの価値をもたらしたのか?
このような価値をなんとか評価しようと、「表明選好法」と言われる方法、例えば、その価値に対していくら支払ってもよいかということをアンケートでたずねるCVMと言われる方法やコンジョイント分析と言われる方法などです。
これは、実際にやれば結果はでます。しかし、アンケートの設計方法や回答者への見せ方、また得られたデータを分析する方法や技量などによって、結果はかなりブレてしまいがちなのです。つまり、誰がやってもそうなるよね。というわけにはいかず、「再現性」においてきびしいのです。
そのような方法によって得られた結果について、それだけ価値があるなら投資しよう、とはなかなかならないわけですね。
そこで誕生したのが「ロジックモデル」というものです。
これは社会的インパクト不動産のために開発された手法というわけではなく、私たちシンクタンクの人間は、ロジカルに物事を組み立てていく上で日常的に行っていた手法なのですが、それが経済的価値を測る物差しでは測れない価値を表現する手法として再構築されたと言ってもいいと思います。
今回は長くなりましたのでここまでとします。
その②でロジックモデルと、社会的インパクトについてかみ砕いてご説明いたします。
合同会社鍬型研究所 代表社員
一般社団法人タガヤス 代表理事
小沢 理市郎
コメント
コメントを投稿