情報を伝えることとは 松本市空き家バンクでの挑戦

 情報を伝えるとは


前職、前々職では、まさに情報そのものを扱っており、大量の情報を集め、ああでもないこうでもない、とさんざん情報を料理した上で、出来上がったディッシュを武器として戦ってきました。

毎日が大量のデータと機微な情報との格闘でした。

しかし、今思い返すと、その情報を伝えたい先、伝えたい人の顔をイメージしたことはなく、できた料理をクライアントのもとに届ける。それが仕事だったように感じます。

  たくさんの報告書を書きました

  たくさんの原稿も書きました。

  たくさんの講演も行いました。

しかし、誰に向かって文章を書いていたのか

誰の顔を見て話しをしていたのかも思い出せません。

思い出せないというか、当初から「読み手の属性」「聞き手の属性」しか意識していなかったのです。

しかし、それはそういう世界である、というだけの話であり、否定するものではありません。


今の私は、というと、ワークショップにお集まりいただいた人たちのお顔は鮮明に覚えていますし、何を伝えようとしたのか、何をお話したのか、どのような人たちがどんな反応をしたのかも覚えています。


情報を伝える、という意味ではどちらも必要な職種職能、行為であり、伝えたい情報によって、伝え方が異なるだけなのかもしれません。


情報を伝えるうえで大切にしたいこと

今の私の立場として、情報を伝える上で大切にしていることがあります。

それは、情報を単に「届ける」のではなく、「脳にしみ込ませること」です。

今は本当に情報量が多い時代です。

スクロールしながらで情報を追い、必要な情報を拾う習慣ができあがっています。

SNSってすごいですよね。発信した情報が端末の数だけ拡散できるわけですから、、

残念ながら、私たちが発信する情報、お伝えしたい情報は、画面スクロールによって視界から消えてしまう類のものです。

ですが、一人でも多くの人たちに伝えたい。脳にしみ込ませたい。

そのために、一人一人の顔が見えるワークショップを開催しています。

一人一人の顔を見ながら、伝えたいことを真剣にお話します。

そこで、参加いただいた方の脳に少しでもしみ込めば、それがその人の言葉の強さと深みにつながり、その人から地域の多くの人たちに拡散されると信じているからです。


松本市空き家バンクでの挑戦

私は、嘗ては全国版空き家空き地バンクをはじめ、いくつかの空き家バンクの創設に関わっていました。

その時からずっと考えていたことがあります。

一般の不動産情報ポータルサイトでは、「借りる」「買う」とか

「戸建て」「マンション」「事務所」「店舗」とか

いわゆる手段や目的に応じてセグメントされて情報が掲載されています。

それはそれでマーケットセグメントを適格に捉えており、極めて合理的であると言えます。

しかし、空き家バンクを考えた時にはどうでしょう。

一般的な住み替え需要だけでなく、

  古い家でこだわりの雑貨屋をしてみたいな

  古民家カフェをしてみたいな

  自分なりにカスタマイズした二地域居住先が欲しいな

  アトリエが欲しいな

など、少しぼやっとしていながらも、こだわりのある需要があります。

そのような人たちが、いわゆる物件広告の情報をみた際に、

自分のやりたいことが実現できるのか、どのような暮らしを送ることができるのかをイメージできるのだろうか。。


そんな思いから、日米英で日本の空き家に興味を持つ方々にアンケート調査を実施してみました。

↓こちらからご覧ください。

国内外における日本の空き家への興味関心と情報ニーズ調査レポート

すると、空き家バンクの利用者は高齢者の方々が多いのですが、その高齢者の方々が空き家バンクの情報で満足しておらず、意中の物件に巡り合うまでに時間がかかっていることがわかりました。




また、生活をしたり、商売をしたりする際に必要となる住宅性能に対する情報ニーズはもちろんあるのですが、

「そこに住めばどんなライフスタイルが実現できるのか」

に関する情報を求めていることがわかりました。



そこで、協力関係のある長野県松本市と相談し、空き家バンクでの情報発信のあり方の検討をスタートしました。

検討にあたっては、鍬型・タガヤスの仲間であり、松本市の空き家バンクの運営を行う株式会社JOHOの松本社長と一緒に行いました。

「そこ家に住めば、その地域住めばどんなライフスタイルが実現できるのか」

これを最もリアリティを持って伝えられるのは、そこでの暮らしを体験した、そこでの思い出のある所有者の方であるのは間違いありません。

ですから、私たちは、空き家バンクに登録されようとする所有者の声をなんとかマーケットに届けたいと思いました。

ここでは詳しくは書きませんが、いろいろとハードルを越えなければなりませんでした。

特に、所有者の声と言っても、物件と紐づけられている場合には、「物件広告」と見なされます。

物件広告というものには、様々な厳しい規制があるので、不動産公正取引協議会と協議を重ねました。

その結果、空き家バンクの閲覧者の方には、視覚的にパッと目に入る情報の伝え方はできないのですが、所有者のその家での暮らし方や、その地域での暮らし方、思い出などをテキストでお伝えすることができるようになったのです。

松本市担当者の皆さまには感謝しかありません。

これにより、さまざま思いにより、空き家を探されている方々に対して、

「そこ家に住めば、その地域住めばどんなライフスタイルが実現できるのか」

を少しでもイメージしやすい情報としてお伝えできるかと思います。

これは、所有者の方が直接行政に持ちんだケースのみで適用され、これからの運用となるため、まだ第一号が出ていないのですが、

少しでも、需要と供給のマッチングにつながり、空き家問題の解消に寄与できればと思います。


このように、鍬型・タガヤスでは、これからも実践力のあるご提案を続けてまいりますので、お気軽にご相談ください。


合同会社 鍬型研究所 代表社員

一般社団法人タガヤス代表理事

地域デザインラボさいたま シニアアドバイザー

小沢 理市郎






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