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社会的インパクト不動産について考えてみる その2 ロジックモデルとは??

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  前回のブログ では、社会的インパクト不動産の概要について、国土交通省のガイドラインをもとに、ESGやSDGsとあわせて解説しました。 最後にロジックモデルについて少し触れましたが、本稿ではそのロジックモデルについて解説してみたいと思います。 少し長くなりますが、お付き合いください。 ロジックモデルとは? ロジックモデルの解説は、各所で行われていますが、実務ベースで扱ってきた経験を元に、私なりの解釈による説明を行いたいと思います。 ロジックモデルは、社会的インパクト不動産のためにつくられた技術ではありません。 ロジックモデルという名称は使わなくとも、シンクタンクなどを中心に、日常に業務において調査研究を組み立てる際によく用いられています。知らず知らずにロジックモデルの考え方で仕事を進めている場合もあります。 ロジックモデルにはあるルールがありますが、基本的考え方としては、「これをするとこんなことが起こる」「こんなことが起こるとこんなことも起こる」「そうすると、徐々にこんな変化が生まれる」というように、何か行動を起こす、何かをつくることによっておこる変化や影響を論理的な思考により考えて、フロー図の形で表現していきます。 政策を扱う研究所では、この政策をこの対象に投入すると、こんなことか起こって、こんな変化があって、こんな効果が生じるよね、と考えていくわけです。 それで大丈夫?ロジックモデル ここで疑問に思われる方がいるかもしれません。 「こんなことが起こって、だからこんなことが起こる、その関係を統計的に証明しなくてもよいの?」 もちろん、その因果関係を統計的に証明していければベストです。 それができれば、わざわざロジックモデルを作成する必要もないのです。 しかし、多くの場合には、起きた事象とさらに起きた事象のぞれぞれの量や変化を数量として捕捉していくことは困難であり、その関係性を統計的に証明するのはもっと困難なわけです。 だからと言って、勝手な思い込みや想定によってロジックモデルをつなげていくことはとても危険です。 言ってしまえば、そのプロジェクトに関わっている者や、そのプロジェクトの影響を受けるであろう人たちのほとんどが、「あ、そうだよね、その通りだよね」と納得できることが大切なのです。それが「対話」です。 その対話によって、ほとんどの人たちが納得できれば...

リサーチの技術 その5 事例から学ぶこと 事例の個別性にとらわれるな

  事例の個別性、特殊性にとらわれるな! 社会問題、地域問題に対しての対策を考える際には、その問題の構造を分解して分析し、それを再構築することについては リサーチに技術 その2 で解説している。 ここでよく問題となるのが事例の取り扱いである。 よくこんな議論がある。 空き家はなぜ生まれるのか、空き家が発生しない対策が必要だ とのお題に対して、 親の家を相続した相続人が遠方に住んでいるケースがある とか 住み替えを行って前の家を放置してしまっているケースもある とか こんなケースもある あんなケースもある といろいろな事例をあげて解を導こうとするのだ。 いろいろな個別性をみることはある意味楽しいし、話題性もあり、記事にもなりやすい。 しかし、これらのいろいろなケースというのは、空き家問題が大きな社会問題になる現在だけの現象ではなく、人々が通常の営みや経済活動を行っていれば起こりえることであり、一つ一つにそれぞれの背景がある。その背景を深堀すれば無限の個別性が生まれる。 その個別性にとらわれてものを考えると、どうなるか。 「考えること、やることがたくさんあって、とても難しい」 となるわけだ。それ以上は先に進めなくなる。 このような 個別性に対してものを考えると、その結果は個別性に対する対処療法 にすぎず、根本的な対策とはならない。 もちろん、個別性の強い個別課題への対策が求められた場合には、 その個別性をできるだけ深堀すればよい。 事例から何を学ぶか 個別性が凝縮されている 個々の事例に横ぐしをさし、普遍的な共通項を抽出 するのだ。それを通して、世の中で、この地域で何が起こっているのか、なにが問題なのかの全体像を把握しようとすることだ。 だから、事例情報はたくさんあるとありがたいのだ。 しかし、決して個別性を見るためではない。共通項を抽出するために必要なのだ。 そして、 この共通項に対しての対策を考えることが優先 されるのだ。 先ほどの空き家の話を例にとると 共通項は、「結果的に空いている状態になること」であり、その背景に個別性があるにすぎない。 空き家になる一つ一つのケースに有効な対策を打ったとしても、 そもそも、家の数よりも、住む世帯の数が少ないので、どちらかが埋まれば、どちらかは空くのである。根本的な解決にはまったくならない。 この「空いている状態」を問題...

リサーチの技術 その5 ライフステージ・ライフスタイルとシチュエーションと住宅双六

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 仕事の特性上、下記のようなお題を頂き、検討を行うことが多くあります。 市場であらたに登場した商品が、正しく社会に定着していくのか、どのようなトラブルが想定されるか 既存の仕組みをアレンジして、こんな社会ニーズや課題に対応したいのだが、アレンジ可能か、需要はありそうか、その場合にどのようなトラブルが想定されるか 私は、住宅・不動産が専門領域ですので、上記したようなお題もその領域に関連したものとなります。 例えば、20年ほど前になりますが、リバースモーゲージがその典型です。 リバースモーゲージは、主に高齢者が所有する住宅を担保として、生活資金を中心とした月々の融資を受け、契約終了時(利用者の死亡時等)に、担保となっている不動産を売却して一括返済する、というのが典型的なスキームでした。 当時は、首都圏を中心とした自治体が展開しており、社会福祉政策の側面が強くありました。 この仕組みは、すでに所有している不動産をキャッシュに転換していく金融の仕組みなのですが、この仕組みがアレンされ、新規で住宅を購入するための資金調達方法として住宅金融支援機構により商品がリリースされ、利用が進んでいます。 (ちなみに、20年ほど前、私はこのスキームとほぼ同じものを考え、同時所属していた研究所からレポートをリリースしています) 昨今では、残価設定型住宅ローンが同様な検討の対象になっているのではないでしょうか。 さて、タイトルに戻りましょう。 リサーチの技術としての「ライフステージ・ライフスタイルとシチュエーションと住宅双六」です。 一番初めに箇条書きで示したよくあるお題を検討するにあたって、あまりにもお題の内容が漠然としているため、まず行うことが「活用シチュエーションの検討」です。 これは どんな場面で どんな人たちが どんな切欠、理由で 興味を持ったり使ったりするのかを検討するわけです。 マーケットセグメントをとることに似ていますが、何か綺麗な軸によりセグメントが取れるとも限らず、個別個別の典型シチュエーションを検討していきます。 そして、得られた個別個別のシチュエーションを徐々に統合して再構築していくのです。 さて、再構築という言葉がでました。 この言葉は、 リサーチの技術その2 で書いていますが、再構築する前に「分解」という作業が行われます。 箇条書きのお題に対してどのような分...

リサーチの技術 番外編 シンクタンクとガバナンスと人

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 今回は、リサーチの技術の番外編として、 シンクタンクとガバナンスと人 について書いてみようと思います。 シンクタンクと一言で言っても、様々な領域を網羅している総合系と、ある領域に特化した専門系があります。 また、何百人、何千人という研究員規模の大手と、100人から数十人の中堅小規模から、当社kuwalabのように、数名でシンクタンクです。と名乗っている会社もあります。 大手になれば当然に社員も多いので、しっかりとした統制が必要となり、管理体制もしっかりとしたものとなります。 それでは、小規模な研究所であれば管理体制は緩やかでよいのか? 昔は、規模の大小にかかわらず、この業界は不夜城のようなものでした。 24時間、必ず誰かが働いている。働き続けている。 私もそのような時代を長く経験してきました。 しかし、働き方改革を経て、時代は徐々にかわり、企業の規模にかかわらず、きちんとした管理体制が求められはじめました。 これは法制度上の問題ですので、小規模だから逃れられるというものではなく、規模にかかわらずにコンプライアンスは求めれるのです。 人を採用すれば、労務管理の世界から逃れることはできず、会社と経営者の責任において、健康管理を行う必要があります。 そして社員を教育することが必要となります。 労使の関係はデリケートなものです。私はこれまでどちら側の立場も経験しましたが、社員が想像する以上に、経営側は細心の注意を払い、神経をすり減らしているものです。 さて、このシンクタンク業界という働き方に話を戻しましょう。 仕事の内容としては、何かを調べたり、情報を整理したり、考えたりレポートを書いたりするわけですが、集中力というものはそれほど長続きしませんので、ちょっと気晴らしをしてから仕事に戻ったり、ちょっと睡眠をとってから仕事に戻ったり、人それぞれに集中力を最大化するやり方があるかと思います。 また、夜中の方が集中できたり、朝方の人もいたり。 要は、お客様との約束の期限までに約束のものを仕上げればよいのですが、この約束ごとを守るための働き方が多様すぎて、労務管理というシステムに乗せることがとても難しい業界でもあります。 なにを申し上げたいかといいますと、 kuwalabでは、社員を増やす方向性ではなく、各分野のプロフェッショナルな方々とアライアンスを組み、対峙すべき課題の...

リサーチの技術 その4 現状認識と価値判断

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現状認識と価値判断 この言葉に触れたのは、大学4年生の時でした。 私は、家庭の事情など、いろいろな事情が重なり、授業に出れない日も多くあったのですが、 当時、都市計画の講義をされていた日本の都市計画学者、高見澤邦郎先生に憧れ、 出来が悪い生徒であったのは重々承知のうえ、研究室の門をたたいたのです。 私のすべてはそこから始まったと言っても過言ではありません。 研究室では、当時、早稲田大学からお越しになっていた早田宰先生にもご指導いただきました。 そこで学んだ言葉が「現状認識と価値判断」です。 もう30年も前の話ではありますが、今でもその言葉を大切にし、後輩にもその言葉の意味を伝え、リサーチ&コンサルティングの現場で用いています。 現状認識と価値判断とは 例えば、地域のまちづくりワークショップなどで、そのまちの将来の姿、イメージする将来の目標像を議論していたとします。 もちろん参加者には、駅近のマンションに住んでいる方、低層戸建住宅地に住んでいる方、地域の商店街の方、商工会の方、行政の方、などなど様々な属性を持った方々が参加しています。 将来の目標像を描き、プランとしてカタチにするということは、そのような様々な属性の方達が共通の「価値判断」を行うことを意味します。 政策判断を行う、民間企業が経営計画を作成する、これらの行為はなんらかの価値判断を行っているのです。 では、価値判断は何に基づいて行われるのでしょうか? それが「現状認識」です。 これは、比較的イメージしやすい話で、 現状がこうだから、将来はこうしよう。と判断するわけです。 つまり、現状認識が異なれば、異なる価値判断に至りやすい、ということになります。 異なる属性の方々が同じ現状認識を持っていることは奇跡に近いことです。 異なる現状認識を持っていれば、異なる価値判断が行われやすくなり、いつまで経っても共通の目標像を描くことはできなくなります。 例えば、行政マンであったとしても、自分のまちを詳細かつ客観的に現状を認識し続けていることは難しいことです。担当者によっても認識が異なり、総合計画のような複数部局を横断する計画づくりの場合では尚更です。 そんな時には、様々なデータを駆使して、可能な限り客観的にそのまちの現状を示してあげる必要があります。それをもとに現状認識のすり合わせを行った上で、価値判断のステップに進むこ...

リサーチの技術 その3 マクロとミクロの目線

  マクロとミクロの目線 リサーチの技術、第三回目は「マクロとミクロの目線」です。 マクロミクロというと、経済学を思い浮かべる方も多いかと思いますが、 ここでは、リサーチにおける目線のレベルを表しています。 前号では、リサーチにおける分解と再構築の考え方をご紹介し、その中でどのような目線が必要かに触れていますが、本号ではもう少し詳しく解説してみます。 これから、シンクタンクへ業界へ飛び込もうとしている方、すでに飛び込んだ方、若手を育成する立場の方、そして、シンクタンクとビジネス上のお付き合いがある方などが参考にしていただけると幸いです。 私(及び私の同僚も同じ体験をしていますが)が、仕事が終わり、家庭に戻った時、頭が家庭モードに切り替わらない状況ですと、普通の会話でもとても違和感を感じ、また、話相手の方も同じ違和感を感じることがあります。 また、私たちは仕事上、様々な業種の方と数多く接する機会を持ちますが、特定の業種の方にヒアリングをしたり、仕事のお話をする場合にも、似た感覚に襲われます。 一般的に、特定の業種で、あるタスクを持った方がお仕事をする際には、そのお仕事を効率的に、効果的に行うための目線を持っています。 捉えている物理的なエリアの広さも目線の違いにダイレクトに影響しますが、なんというのでしょうか、世の中を見る角度というか、そんなものも異なります。 これは、マクロの目線が良いとか、ミクロが良いとか、その良し悪しを言いたいわけではなく、置かれている立場、業種によって、最適な目線があると感じるのです。 一方、私たちのような人種は、特定の目線をもっていないことが多くあります。 人によっては、得意な目線、得意な切り口をもっていて、前回紹介したようなぼやぼやっとしたモノをそこから切り込んでいくことはありますが、基本的にマクロからミクロを常に行ったり来たりしています。 例えば、マクロな目線が必要なかなり大きなテーマの話をしていたとします。 ある方が、ちょっとわかりにくいようなお顔をしていたり、話がかみ合わなかったりした場合には、具体的な事例をあげて説明することがあります。 事例とは、話したいテーマの一部分しか表現できないのですが、そこから話を切り出した方がうまくかみ合う場合が多いのです。しかし、事例ばかりあげていると、本来議論したい事柄の本質を話すことができま...

リサーチの技術 その2 分解と再構築

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リサーチにおける「分解」と「再構築」  前回は、リサーチにおける1から10をご紹介しました。 1,とはお客様に初めて接触し、抱えている問題課題をお聞きし、お題をいただくステップです。 この時に、1から10のうち、9くらいをイメージして、3,5,7を組み立てていくことになります。 (詳しくは前号をご参照ください) 今回は、その3,5,7についてご紹介します。 3,5,7とは、ぼやぼやっとして、カタチや色がわからないものを一度分解して再構築するプロセスとなります。 ぼやぼやっとしているものは、そのままの姿を何度凝視しても、カタチや色はわからないままです。 この姿のまま、カタチや色を浮かび上がらせようとしても失敗に終わることが多いのです。 そこで、一度、 分解 します。 この 分解のプロセスで勝負が決まる と言っても過言ではありません。 どのような切り口で分解するか。それが勝負なのです。 切り方は与えられた課題によって異なります。 わたしは住宅や不動産を専門領域にしていましたので、まずは 需要と供給に切ってみる ことをよくしていました。 次に、需要と供給の実態はどうなのか。 需要サイドは、本当は何を求めているのか、供給サイドは今後どのような戦略をもっているのか、 つまり、 実態と意向でさらに分割 してみる。 これで4分割です。 次のステップです。 では、分解されたそれぞれのピースごとに、カタチや色を浮かび上がらせる適切な方法を考えて実践します。 分解することにより、より論点が明確になりますので、アプローチもヒットしやすくなります。 例えば、文献調査、アンケート調査やヒアリング調査、データを用いた定量的分析などアプローチはいくつもありますが、それらを組み合わせて行っていきます。 すると、ピースごとに、角や辺、色がぼんやりと見え始めてきます。 角が見え始めたら、その角度をできるだけ鮮明にするための分析をさらに行います。 辺や色も同じように深堀の分析を行っていきます。 ある程度のカタチや色が見えてきたところで、分解したピースを合体させてみるのです。 これが 再構築、 3,5,7のプロセスです。 もちろん、鮮明にカタチと色を浮かび上がらせることは難しいのですが、水色の平行四辺形が最も近い、という判断を行うことができるようになります。 最後に、他に考えられるカタチと色の可能...

リサーチの技術 その1  リサーチの1から10

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 リサーチの1から10 わたしたちの仕事とは、カタチや色がぼやぼやっとして、よくわからないモノの提示を受けて、このカタチはなにか、この色はなにかを明らかにせよ。 と言われるようなものです。 少なくとも、カタチや色を判断する材料くらいはみつけなければなりません。 よくわからないモノの提示を受けて、これはここまで出来てお幾らくらいですね、と、見積額を提示するわけですが、よくわからないモノを見せられて、 なぜ見積額が出せるのか その時に、どのような頭の使い方をするのか 実際にどのようなアプローチをとるのか なぜ契約期間の中でアウトプットが出せるのか など、多くの方が疑問に思うことをご紹介していきたいと思います。 1から10とは、お客様と初めて接触してお題に関する話をうかがったり、こんなお題があるんですが誰かやりませんか?という「公募」情報をみた時を「1」とすると、調査研究・コンサルティングが終わり、成果報告を行った時を「10」とイメージしてください。 最も大切なステージは「1」です。 こんなことをやりたい こんなことできますか? というお話を伺った際、 頭の中では、1,3,5,7,9 くらいの粗いイメージを描きます。これはお客様のお話をうかがっているとほぼ同時のタイミングです。 イメージする順番は、 1→3→5→7→9 ではなく 1→9→3→5→7 の順番となります。 3,5,7は、具体的なリサーチスキルを用いて作業をしている工程です。 10に近づくほど、取りまとめに入るわけですが お客様のお話をうかがっている最中、もしくは直後には、報告書の「まとめ」の章の文章が半分くらいは頭の中で描かれています。 もちろん、3,5,7の分析結果がでていなので、カタチは四角なのか丸なのか、色は青なのか赤なのかはわかりません。 しかし、今見えている物体の粒度はこのくらいだから、こんなアプローチをとってみた、とか、四角だったら、青だったらお客様にとって、社会にとってどのような影響があるのか、 などを幾つかのパターンでイメージします。結果がでればそれを最後に置けばよい、くらいのイメージです。 9のイメージがなんとなくできたら、あとは具体的にどのようなアプローチでカタチや色を導いていくかの方法論を組み立てていきます。 なぜ、9が先かといいますと、もちろん無限の時間とお金と人工があれば、 ...