リサーチの技術 その5 事例から学ぶこと 事例の個別性にとらわれるな
事例の個別性、特殊性にとらわれるな!
社会問題、地域問題に対しての対策を考える際には、その問題の構造を分解して分析し、それを再構築することについてはリサーチに技術 その2で解説している。
ここでよく問題となるのが事例の取り扱いである。
よくこんな議論がある。
空き家はなぜ生まれるのか、空き家が発生しない対策が必要だ
とのお題に対して、
親の家を相続した相続人が遠方に住んでいるケースがある
とか
住み替えを行って前の家を放置してしまっているケースもある
とか
こんなケースもある
あんなケースもある
といろいろな事例をあげて解を導こうとするのだ。
いろいろな個別性をみることはある意味楽しいし、話題性もあり、記事にもなりやすい。
しかし、これらのいろいろなケースというのは、空き家問題が大きな社会問題になる現在だけの現象ではなく、人々が通常の営みや経済活動を行っていれば起こりえることであり、一つ一つにそれぞれの背景がある。その背景を深堀すれば無限の個別性が生まれる。
その個別性にとらわれてものを考えると、どうなるか。
「考えること、やることがたくさんあって、とても難しい」
となるわけだ。それ以上は先に進めなくなる。
このような個別性に対してものを考えると、その結果は個別性に対する対処療法にすぎず、根本的な対策とはならない。
もちろん、個別性の強い個別課題への対策が求められた場合には、
その個別性をできるだけ深堀すればよい。
事例から何を学ぶか
個別性が凝縮されている個々の事例に横ぐしをさし、普遍的な共通項を抽出するのだ。それを通して、世の中で、この地域で何が起こっているのか、なにが問題なのかの全体像を把握しようとすることだ。
だから、事例情報はたくさんあるとありがたいのだ。
しかし、決して個別性を見るためではない。共通項を抽出するために必要なのだ。
そして、この共通項に対しての対策を考えることが優先されるのだ。
先ほどの空き家の話を例にとると
共通項は、「結果的に空いている状態になること」であり、その背景に個別性があるにすぎない。
空き家になる一つ一つのケースに有効な対策を打ったとしても、
そもそも、家の数よりも、住む世帯の数が少ないので、どちらかが埋まれば、どちらかは空くのである。根本的な解決にはまったくならない。
この「空いている状態」を問題視すべきか。
先ほども触れたが、そもそも家の数より、住む世帯の数が少ないのだから、「空いている状態」が生まれるのは回避できないのだ。
よって、「空いている状態」からもたらされる問題はなにか?を考えればよい。
それは、長期間放置されることにより気が付いた時には市場に戻せない状態になってしまうこと、長期間放置されることにより近隣に多大な迷惑をかける恐れがあること、とまとめればわかりやすい。
ならば、長期間放置されないような対策を考えましょう。
ということになる。
これは、話をわかりやすくするために、敢えてシンプルに表現してみたのだが、社会問題や地域の問題を分解する上では、登場するプレイヤーなどを分解軸とすることがあり、それぞれのプレイヤーの特性に起因する課題もあるため、本当はもっと複雑である。
複雑にさせるのは、個別事例の個別性や特殊性ではないのだ。
面白い事例がみつかると、ついついそれを取り上げたくなり、それにとらわれてしまう。
いつのまにか、それが世の中の代表的な動きであると思い込んでしまったりもする。
それは、書く側も読む側もである。
もちろん立場が変われば、面白いたくさんの事例情報を持ち、それらが個別性に富んでいることがお宝になることもある。
しかし、社会問題や地域問題を解決する立場の技術としては、「事例の個別性にとらわれるな」である。
kuwalab小沢
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