リサーチの技術 その5 ライフステージ・ライフスタイルとシチュエーションと住宅双六
仕事の特性上、下記のようなお題を頂き、検討を行うことが多くあります。
- 市場であらたに登場した商品が、正しく社会に定着していくのか、どのようなトラブルが想定されるか
- 既存の仕組みをアレンジして、こんな社会ニーズや課題に対応したいのだが、アレンジ可能か、需要はありそうか、その場合にどのようなトラブルが想定されるか
私は、住宅・不動産が専門領域ですので、上記したようなお題もその領域に関連したものとなります。
例えば、20年ほど前になりますが、リバースモーゲージがその典型です。
リバースモーゲージは、主に高齢者が所有する住宅を担保として、生活資金を中心とした月々の融資を受け、契約終了時(利用者の死亡時等)に、担保となっている不動産を売却して一括返済する、というのが典型的なスキームでした。
当時は、首都圏を中心とした自治体が展開しており、社会福祉政策の側面が強くありました。
この仕組みは、すでに所有している不動産をキャッシュに転換していく金融の仕組みなのですが、この仕組みがアレンされ、新規で住宅を購入するための資金調達方法として住宅金融支援機構により商品がリリースされ、利用が進んでいます。
(ちなみに、20年ほど前、私はこのスキームとほぼ同じものを考え、同時所属していた研究所からレポートをリリースしています)
昨今では、残価設定型住宅ローンが同様な検討の対象になっているのではないでしょうか。
さて、タイトルに戻りましょう。
リサーチの技術としての「ライフステージ・ライフスタイルとシチュエーションと住宅双六」です。
一番初めに箇条書きで示したよくあるお題を検討するにあたって、あまりにもお題の内容が漠然としているため、まず行うことが「活用シチュエーションの検討」です。
これは
どんな場面で
どんな人たちが
どんな切欠、理由で
興味を持ったり使ったりするのかを検討するわけです。
マーケットセグメントをとることに似ていますが、何か綺麗な軸によりセグメントが取れるとも限らず、個別個別の典型シチュエーションを検討していきます。
そして、得られた個別個別のシチュエーションを徐々に統合して再構築していくのです。
さて、再構築という言葉がでました。
この言葉は、リサーチの技術その2で書いていますが、再構築する前に「分解」という作業が行われます。
箇条書きのお題に対してどのような分解が行われるか、ですが
私は「ライフステージ」と「ライフスタイル」による分解を行います。
この二つの言葉はよく混同されて用いられます。
混同することは間違い、というわけではありません。実際には密接に絡み合っているものです。
しかし、住宅・不動産に関わる今の時代を切るためには、分けて考える必要があるのです。
ライフステージとは、不可逆的に流れる時間の経過により変化するものとして定義します。
つまり、生物であれば万物が避けられない時間の経過による成長と老い、そしてそれに起因するステージの変化です。
典型的なものとしては、子供が成長して親元から離れて一人暮らしをする、結婚して子供ができる、その子供が成長して親離れしていく、パートナーが他界して独居となる、などです。
住宅領域に詳しい方なら、ここでピンとくるかと思います。
そう、嘗てよく話題になっていた住宅双六の各ステージです。
住宅双六は、スタートからあがり、その過程については、概ねライフステージの変化に支配されており、それが「一般的」と言われていたわけです。多くの国民が、このわかりやすい双六をしていたため、政策も打ちやすく、市場もこの双六に応じて動くことができました。しかし、現在ではどうでしょう。双六は必ずしも想定したあがりに向かわないのです。
嘗ては、結婚せずに独り身でいると、周りが心配をしたり、余計なお世話を焼いたりと、ちょっと目立つ存在になりましたが、現在では、独り身でいることを積極的に選択する人たちも増え、社会もそれに対して過剰な反応はしなくなりました。
DINKSなどはその典型でしょう。
つまり、嘗ては双六の「過程」であったものが、現代では「あがり」、または「あがり」に限りなく近い過程として選択され、認知されているのです。
この選択を行わせる価値観が「ライフスタイル」なのです。
つまり、生物が避けては通れない不可逆的な時間の流れによるライフステージと、自主的な判断により選択可能なライフスタイルという全く色味が異なる2軸の絡み合いの中で、需要や課題が発生するのです。
これはやっかいです。
ですから、可能な限り、この「ライフステージ」と「ライフスタイル」によって、与えられたお題を分解していき、最後に再構築を行うのです。
現代の住宅双六については、とても興味深いテーマですので、また違う機会にまとめていきたいと思います。
kuwalab小沢
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